「ベンダーロックイン」という言葉を、会議やニュースで耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。システムの開発や保守を外部の会社に任せている企業にとって、無関係とはいえない言葉です。
結論からいうと、ベンダーロックインとは、特定のベンダーへの依存が強まり、ほかの会社に切り替えたくても現実的に切り替えられなくなった状態のことです。
この記事は、システム開発を外注している企業の担当者や経営者の方に向けて書いています。ベンダーロックインの意味を、身近な例を使ってわかりやすく解説します。
あわせて、ロックインが起きる原因、メリットとリスク、公的な調査や自治体の資料からわかる実態も紹介します。自社のシステムが当てはまるかどうかを考える材料にしてください。
ベンダーロックインとは?わかりやすく解説
この節では、ベンダーロックインの意味と言い換え、身近なたとえを紹介します。
一言でいうと「ほかの会社に乗り換えられない状態」
ベンダーロックインとは、特定のベンダーへの依存が強まり、ほかの会社への切り替えが難しくなった状態のことです。ほかの会社に頼むこと自体はできても、データ移行に多額の費用がかかるなど、費用や手間の面から現実的に選べない状態も含まれます。ベンダーとは、製品やシステムを提供する事業者を指します。
公正取引委員会は、調査報告書の中でベンダーロックインを次のように説明しています。システムの機能改修やバージョンアップ、ハードウェアの保守など、使い続けるために必要な作業を導入した事業者以外が行えないため、特定のベンダーを利用し続けなくてはならない状態です。
出典:公正取引委員会「(令和4年2月8日)官公庁における情報システム調達に関する実態調査について」
ここで大切なのは、同じ会社と長く付き合うこと自体は問題ではない、という点です。満足して自ら選び続けているなら、困ることはありません。「替えたくても替えられない」状態こそが、ベンダーロックインです。
言い換えると「囲い込み」「特定の業者への依存」
ベンダーロックインは、次のように言い換えられます。
- 囲い込み:ベンダーの側から見た言い方
- 特定の業者への依存:システムを使う企業の側から見た言い方
- 乗り換えにくい状態:状況をそのまま表した言い方
関連する言葉に「スイッチングコスト」があります。今使っているものから別のものに乗り換えるときにかかる、手間や費用のことです。スイッチングコストが大きいほど、ロックインは強くなります。
身近なたとえ:専用のカートリッジしか使えない浄水器
ある浄水器の交換用カートリッジが、そのメーカーの専用品しかないとします。本体を買い替えない限り、カートリッジはそのメーカーから買い続けるしかありません。値上がりしても、ほかの安い製品には替えられません。
企業のシステムでも、同じことが起こります。システムの中身をそのベンダーしか知らない、あるいはそのベンダーしか触れない状態になると、改修や保守をほかの会社に頼めなくなります。
ベンダーロックインの2つの種類と例
この節では、ベンダーロックインがどんな形で起こるのかを、2つの種類に分けて説明します。なお、この分け方は法律などで決められた定義ではなく、一般的によく使われる整理の仕方です。
| 種類 | 何に縛られるか | 例 |
|---|---|---|
| コーポレートロックイン | 特定の会社(人や知識) | 仕様を知っているのが、開発した会社の担当者だけになっている |
| テクノロジーロックイン | 特定の技術や製品 | その会社独自の技術で作られていて、ほかの会社では扱えない |
コーポレートロックイン:「その会社でないと話が通じない」
長い付き合いのなかで、ベンダーがシステムの細かい仕様や自社の業務の事情を深く理解している状態です。
ほかの会社に替えようとすると、同じ理解を一から作り直す必要があります。その手間と費用を避けるために、同じ会社に頼み続けることになります。
たとえば、10年前に作った販売管理システムを、改修のたびに同じ開発会社へ依頼してきたとします。社内に詳しい人がいなくなり、仕様を知っているのは先方の担当者だけ、という状態がこれにあたります。
テクノロジーロックイン:「その技術でないと動かない」
ベンダー独自の技術や製品、サービスの仕様に依存している状態です。ほかの技術に置き換えるには、作り直しに近い作業が必要になります。
次のような場合が、これにあたります。
- 開発会社が独自に作ったしくみの上にシステムが作られていて、ほかの会社のエンジニアでは扱えない
- あるクラウドサービス(インターネット経由で使うサーバーなどのサービス)独自の機能を多く使っていて、別のサービスへ移すには大きな改修が必要になる
身近な製品にも似たしくみがある
スマートフォンや写真の保存サービスなども、長く使うほど購入したアプリや保存したデータが増え、他社の製品に乗り換えにくくなります。
こうした「乗り換えにくさ」は日常にもある構造です。企業のシステムの場合は、その影響が業務の継続や費用に直接かかわる点が大きく異なります。
ベンダーロックインが起きる原因
この節では、ベンダーロックインがなぜ起きるのかを、公的な調査の結果をもとに説明します。
公正取引委員会は2022年2月に、国の機関や地方公共団体のシステム調達に関する調査結果を公表しました。その中で、システムの保守や改修の際に「既存のベンダーと再び契約することになった理由」を尋ねています(複数回答)。主な回答は次のとおりです(抜粋)。
| 再び契約することになった理由 | 回答数 | 割合 |
|---|---|---|
| 既存ベンダーしか、システムの機能の詳細を把握できなかった | 483 | 48.3% |
| システムの機能(技術)の権利が、既存ベンダーにあった | 243 | 24.3% |
| 既存ベンダーしか、保存されているデータの内容を把握できなかった | 211 | 21.1% |
| 保存されているデータの権利が、既存ベンダーにあった | 71 | 7.1% |
出典:公正取引委員会「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書(概要)」
この設問の対象は、既存のベンダーと再び契約した事例が「ある」と答えた1,000機関です。表には、ロックインに関係する主な回答を抜き出しています。このほか「入札の結果、既存ベンダーが落札した」(33.6%)などの回答もあり、報告書は、再び契約した事例がすぐにロックインを意味するわけではないとしています。また、官公庁を対象とした調査のため、民間企業での発生率を示す数値ではない点にも注意してください。
出典:公正取引委員会「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」
この結果をもとに、主な原因を3つに整理します。
1. システムの中身を既存ベンダーしか知らない
調査で最も多かった理由です。改修を重ねるうちに、どこをどう変えたのかを知っているのがベンダーだけになると、ほかの会社は手を出せなくなります。
設計書(システムの構造や動きをまとめた資料)がない、または古いままの場合も同じです。ほかの会社は、システムを一から読み解く必要があり、引き継ぎの負担が大きくなります。
設計書や変更履歴が不足し、特定の人や会社しかシステムを理解できない状態は、保守や改修の負担を増やします。こうした問題が積み重なると、技術的負債(後回しにした改善が積み重なり、将来の負担になっている状態)につながり、ロックインをさらに強めることがあります。
2. ソースコードの著作権やデータの利用条件が、ベンダー側に有利になっている
ソースコードとは、システムを動かすプログラムの中身のことです。ソースコードの著作権がベンダーにある場合、契約や利用許諾の条件によっては、ほかの会社による改修に制約が生じることがあります。ただし、著作権がベンダーにあるからといって、必ずしもほかの会社に引き継げないわけではありません。
一方、データはソースコードとは考え方が異なります。データそのものに一般的な所有権が認められるわけではないため、誰がどの範囲でデータを利用・提供・移行できるかは、契約で確認しておく必要があります。発注時の契約でこうした条件を決めていたかどうかが、後になって選択肢の幅を左右します。
出典:経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」
3. 契約や独自技術による縛り
複数年の保守契約を結んでいる場合や、ベンダー独自の技術でシステムが作られている場合も、乗り換えを難しくする要因になります。前の節で紹介した「テクノロジーロックイン」は、この原因によるものです。
ベンダーロックインのメリット
ロックインの状態は、悪いことばかりではありません。同じベンダーと長く付き合うことには、次のような良い面もあります。
- 自社の業務や過去の経緯を知っているため、毎回の説明が少なくて済む
- 窓口が一つなので、社内での管理がしやすい
- 長期的な計画について相談しやすい
価格や対応に満足していて、今後も替える予定がないのであれば、すぐに困ることはありません。
ベンダーロックインの4つのリスク
一方で、ほかの会社を選べない状態には、次の4つのリスクがあります。
| リスク | 起こりうること |
|---|---|
| 費用を比べられない | 見積もりをほかの会社と比べられず、提示された金額を受け入れるしかない |
| 乗り換えの費用が高くなる | 移行の費用が大きすぎて、替えたくても替えられない |
| 相手の事情に左右される | 担当者の退職や事業の縮小などで、自社の都合と関係なく対応が変わる |
| 新しいしくみを取り入れにくい | ほかのサービスとの連携や、新しい技術の採用が進めにくい |
乗り換えの費用については、実際の例があります。公正取引委員会の調査では、ある地方公共団体が公共施設予約システムを更新する際、既存のベンダーからデータ移行の費用として5,000万円を請求され、移行の依頼を断念した事例が紹介されています。
なお、同じ報告書では、合理的な理由なく仕様の開示やデータの移行を拒み、他社の参入を妨げる行為は、独占禁止法上問題となるおそれがあると整理されています。
ただし、既存のベンダーから合理的な理由なく、仕様の公開、データの引き継ぎ、ほかのシステムとの接続のいずれかを拒否されたことがあると答えた機関は、21機関(有効回答1,009機関の2.1%)でした。同じ報告書は、再び契約することになった背景として、権利の取り決めが適切に行われていなかった可能性や、発注する側の知識・人員が不足している可能性を挙げています。ロックインは、ベンダーの意図的な囲い込みだけで起きるとは限りません。
自治体など公共分野での事例
この節では、ベンダーロックインが社会的な課題として扱われている公共分野の動きを紹介します。民間企業にとっても参考になる点が多くあります。
公正取引委員会による実態調査
ここまで紹介した調査は、国の機関や地方公共団体1,835機関を対象としたアンケート(回答は1,021機関)と、官公庁129機関・ベンダー5社へのヒアリングをもとにしています。
調査では、ある県の声として、次のような状況が紹介されています。システムが何度も改修され、その変更の履歴を既存のベンダーしか把握していない。担当者もその内容を理解できていないため、ほかの会社に発注できない、というものです。
また報告書は、調査対象は官公庁であるものの、同じ論点を持つ民間の取引でも報告書の考え方は役立つとしています。
自治体システムの標準化:ロックインの回避が目標の一つ
国は、住民基本台帳や税、福祉など、自治体の20の業務について、システムの統一・標準化を進めています。
国は標準化の目標の一つとして、仕様やデータの形式をそろえることでベンダーロックインを回避し、複数の事業者による競争環境を確保することを掲げています。
出典:デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」
自治体は原則として2025年度末までに、国の標準に合わせたシステムへ移行することを目指してきました。しかし2026年3月末時点で、移行対象の34,366システムのうち10,013システム(29.1%)は期限内に移行できない「特定移行支援システム」となっています。国は、これらのシステムがおおむね5年以内に標準準拠システムへ移行できるよう支援する方針です。その要因には、事業者の作業量が想定を超えたことのほか、現行の事業者が撤退し、代わりのシステムを調達する見込みが立たないことなども挙げられています。
自治体の公開資料に見る実例
自治体は、競争入札をせずに相手を選んで結ぶ契約(随意契約)について、その理由を公開しています。その中には、ロックインの構造がそのまま書かれているものがあります。
- 大津市:健康管理システムを国の標準に合わせたシステムへ移すため、今のシステムからデータを取り出す業務を委託した契約です。相手を選んだ理由として、現行システムの開発業者であり、プログラムのソースなどが公開されておらず、対応できる唯一の業者であることが挙げられています。契約金額は19,780,200円(税込)でした。
- 豊中市:児童手当システムと生活保護システムの改修について、システムを開発した事業者に著作権があるため、その事業者しか業務を行えないとして随意契約を結んでいます。
出典:豊中市「随意契約理由」
民間企業にとっての教訓
公共のシステムは規模が大きいものの、「中身を知っているのが一社だけ」「権利が開発した会社にある」という構造は、民間の受託開発でも同じように起こりえます。いざほかの会社に替えたいと思ったときに選択肢が残っているかどうかは、日頃からシステムの中身と権利の扱いを把握しているかどうかに左右されます。
自社のシステムが当てはまるか気になる場合は、弊社オプスインへのご相談も受け付けています。
対策は「抜け出す」と「陥らない」の2つ
この節では、対策の全体像を紹介します。すでにロックインの状態にあるか、これから発注するかで、取るべき対策が変わります。
すでにロックインの状態にある場合:抜け出す
抜け出すための選択肢は、大きく分けて次の3つです。
- 1. 今のベンダーと交渉する(資料の提供や権利の扱い、費用の見直しを相談する)
- 2. 別の開発会社にシステムを引き継ぐ
- 3. システムを作り直す
どれを選ぶべきかは、ソースコードや設計書が手元にあるか、権利がどちらにあるかなどによって変わります。
これから発注する場合:陥らない
新しくシステムを発注する場合は、契約の段階で次の点を決めておくことが、将来の選択肢を残すことにつながります。
- ソースコードの権利をどちらが持つか、データをどの範囲で利用・移行できるか
- 設計書などの資料を、納品物に含めるか
- 委託先が替わるときの引き継ぎを、どう行うか
公正取引委員会の調査でも、ロックインを防ぐ取り組みとして、システムの構築後に設計書などの提供を受けている機関が44.6%、データの権利を発注者が持つと契約などで定めている機関が27.9%ありました。
ベンダーロックインに関するよくある質問
ベンダーロックインは違法ですか?
ロックインの状態そのものが、すぐに違法になるわけではありません。公正取引委員会の報告書は、ベンダーが権利の範囲内で開示を断ったり、適正な対価を求めたりすること自体は、直ちに独占禁止法上の問題にはならないとしています。一方で、合理的な理由なく仕様の開示やデータ移行を拒み、他社が参入できないようにする場合などは、問題となるおそれがあると整理しています。
民間企業でも起こりますか?
起こりえます。公正取引委員会の調査対象は官公庁ですが、報告書は、同じ論点を持つ民間の取引にも考え方が役立つとしています。受託開発で作ったシステムでも、中身を知っているのが一社だけ、権利が開発会社にある、といった状態であれば当てはまります。
自社が当てはまるか、まず何を確認すればよいですか?
「ソースコードと設計書が自社の手元にあるか」「契約でソースコードの権利やデータの利用条件がどう定められているか」の2点から確認するのがおすすめです。
まとめ
ベンダーロックインについて、この記事の要点を振り返ります。
- ベンダーロックインとは、特定のベンダーへの依存が強まり、ほかの会社に切り替えたくても現実的に切り替えられなくなった状態のこと
- 主な原因は、中身を既存ベンダーしか知らないこと、ソースコードの著作権やデータの利用条件がベンダー側に有利になっていること、契約や独自技術による縛り
- 業務をよく知る相手に任せられるメリットがある一方、費用を比べられない、乗り換えが難しいといったリスクがある
- 公共分野では社会的な課題として扱われ、国もロックインの回避を目標の一つに掲げて取り組みを進めている
自社のシステムが当てはまるか気になった場合は、まず「ソースコードと設計書がどこにあるか」「契約で権利がどう定められているか」を確認するところから始めてみてください。
弊社オプスインにも、「今のベンダーから離れたいが、何から始めればよいか分からない」というご相談が寄せられています。手元の資料や契約の確認といった、現状の整理からでもお気軽にお問い合わせください。
