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2025年6月23日

オンライン診療サービス開発ガイド:市場分析から技術課題まで

医療DXの最前線で、オンライン診療市場は急速な成長を続けています。

しかし、多くの医療スタートアップが直面するのは、単純な技術開発を超えた複雑な課題群です。CLINICS、curon、YaDocといった先行プレイヤーが寡占化を進める中で、新規参入や既存サービスの競争力強化には戦略的アプローチが不可欠です。

本記事では、医療テックCTOがオンライン診療SaaS開発で成功するために必要な市場理解、導入メリットの本質、4つの技術課題について解説します。特に、現在の医療現場で深刻化しているシステム分離問題と、それを解決するための技術戦略に焦点を当てています。

遠隔診療市場への新規参入を検討している方、既存サービスの改善を目指す方にとって、実践的な指針を提供します。

1. 日本のオンライン診療市場の現状把握

1.1 市場規模と成長予測

日本のオンライン診療市場は確実に成長しています。厚生労働省の実績データによると、医療機関のオンライン診療対応率は令和2年4月時点で既に9.7%、令和5年3月で16.0%と年々拡大しています(参考:厚生労働省「令和5年1月~3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」 。富士経済グループの予測では、国内のオンライン診療システム/サービス市場は2021年27億円から2035年73億円へと約3倍成長が見込まれています。(参考:富士経済グループ「医療連携システム、医療プラットフォーム関連の国内市場を調査」)。

1.2 主要SaaSプレイヤー

CLINICS(メドレー): 医師向けシェアNo.1を獲得し、富士経済調査で2018年時点の医療機関導入シェア46.5%を記録、現在10,000施設以上に導入済みです。予約・問診・診察・決済を一元管理するプラットフォーム戦略が奏功しています。

curon(MICIN): 2022年時点で全国6,000施設を突破、初期費用・月額利用料無料のフリーミアムモデルで急成長を遂げています。5,000店舗以上の薬局向けサービス「curonお薬サポート」との連携も特徴です。

YaDoc(インテグリティ・ヘルスケア): 約4,000医療施設のネットワークを構築し、疾患管理システムとの統合により慢性疾患の継続的ケアに特化しています
その他: PocketDoctor(MRT)は全国10,000施設との連携実績、LINEドクターはLINEアプリ上での診療サービスを展開しています。

 

1.3 技術トレンド

AI統合機能: 音声認識によるカルテ自動作成技術が実用化段階にあり、medimo等のサービスでは診察中の会話を自動的にSOAP形式でカルテ化し、医師の記録作業を大幅に削減する効果を示しています。
収益モデルの多様化: 従来の月額固定料金に加え、curonのような基本無料モデル、薬局連携による手数料モデルなど、差別化戦略が活発化しています。
セキュリティ強化: 医療情報保護に向けたHTTPS通信強化、二要素認証、ゼロトラストネットワーク設計の導入が進んでいます。

現在の市場は主要プレイヤーによる寡占化が進んでおり、AI機能の充実度とシステム連携能力が今後の競争優位を決める重要な要因となっています。特に既存の電子カルテやレセコンとの連携可能性が、医療機関の導入判断に大きく影響する状況です。

2. オンライン診療推進で得られるメリット

2.1 医療機関にとってのメリット

収益・効率面の改善

遠隔診療導入により、医療機関は地理的制約を超えた患者獲得が可能になります。厚生労働省の事例集では、北海道の皮膚科クリニックが道内全域から患者を受け入れ、2-3時間かけて通院していた患者の負担軽減を実現し、患者との継続的な関係を維持できた例が報告されています(参考:厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集」)。
診療効率においても大幅な向上が見込めます。理想的な環境では、予約枠を設定した5-10分程度の集中診療により、同じ時間でより多くの患者対応が可能になります。1つの画面で予約確認から診療記録、処方箋作成、決済まで完結できるため、医師の作業時間を大幅に短縮できます。

医療品質の向上

継続的ケアの実現が医療品質の向上に寄与しています。東京都杉並区の神経内科では、パーキンソン病などの神経疾患患者に対してオンライン診療を活用し、遠方居住患者や通院困難な患者の治療継続率を大幅に向上させています。

専門医へのアクセス改善も重要な効果です。地方在住患者が都市部の専門医による診療を受けられるようになり、医療格差の解消に貢献しています(へき地医療支援において特に効果を発揮)。

2.2 患者にとってのメリット

利便性の劇的向上

通院負担の軽減効果は絶大です。患者は交通費、時間コスト、待ち時間をすべて削減できます。特に慢性疾患の定期受診において、1回の受診で2-3時間節約できるケースが多く報告されています。
高齢者や身体障害者にとって、自宅からの受診は移動の物理的負担を完全に解消します。また、感染症流行時においても院内感染リスクゼロで安全な診療を受けられます。

医療アクセスの拡大

地理的制約の解消により、離島・へき地在住者でも専門医による診療が受けられるようになります。山口県の事例では、県立総合医療センターが県内全域の患者に専門診療を提供し、離島への薬剤の受け渡しに課題はあるものの地域医療格差の解消に貢献しています(参考:厚生労働省「オンライン診療その他の遠隔医療 に関する事例集」)。

プライバシー・心理的負担軽減

自宅という慣れた環境での受診により、患者がリラックスした状態で診療を受けられます。特に精神科やデリケートな疾患の診療において、患者の心理的ハードルを大幅に下げる効果があります。

2.3 社会全体へのインパクト

医療費抑制効果

予防医療の推進により、重症化防止と医療費削減が期待されます。継続的なモニタリングにより早期発見・早期治療が可能になり、結果として医療費の適正化に貢献します。厚生労働省は遠隔医療により医療費を抑制しつつ、医療の質向上を目指す方針を示しています。

医師の働き方改革

訪問診療における移動時間削減により、医師の時間的負担を大幅に軽減できます。特にへき地医療において、医師が効率的に広域の患者をカバーできるようになり、医師不足地域での医療提供体制強化に寄与しています。

医療データ活用の促進

オンライン診療により蓄積されるデジタルデータは、今後の医療研究や公衆衛生政策立案に貴重な資源となります。患者の日常生活における健康状態データを継続的に収集することで、より精密な医療サービスの提供が可能になります。
遠隔診療は医療機関・患者・社会全体に大きなメリットをもたらす可能性を持っています。しかし、その効果を最大化するには、現状の技術的課題、特にシステム統合・連携の問題を解決することが不可欠です。多くの医療機関がこの課題に直面している現状を踏まえ、真の効率化を実現するための技術的解決策が求められています。

3. 遠隔診療システム開発の4つの核心課題

3.1 診療品質の担保とユーザビリティの両立

技術的要件の複雑性

遠隔診療では、通信品質が診療の質に直結します。音声・映像の遅延や途切れは診断精度に影響するため、リアルタイム通信の最適化が必須です。特に高齢患者の利用を考慮すると、ネットワーク環境が不安定でも安定した診療を提供する技術設計が求められます。

医師・患者双方のユーザビリティも重要な課題です。医師側では既存の診療フローを大きく変えることなく、直感的に操作できるインターフェースが必要です。患者側では、ITリテラシーに関係なく利用できる簡潔な操作性が求められます(特に高齢者の利用ハードルを下げることが普及の鍵)。

実装における技術選択

フロントエンド技術では、アプリダウンロードの手間を省くWebベースのアプローチも有効です。例えば、YaDoc Quickは「アプリ不要」でブラウザから直接利用できる設計により、患者の利用開始ハードルを大幅に下げています。

AI技術の活用も診療品質向上に寄与します。音声認識によるカルテ自動作成技術は、medimo等で実用化されており、医師の記録作業を大幅に削減する効果を示しています。
これにより医師は患者との対話により集中できるようになります。

3.2 セキュリティ・コンプライアンス対応

医療特有の規制要件

遠隔診療システムは厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」への準拠が必須です。特にセキュリティ面では、患者の本人確認、医師の身分証明、通信の暗号化など、厳格な要件が定められています(参考:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」)。

汎用サービス(Zoom等)を使用する場合、追加的な安全管理措置が医師個人に課されるため、専用システムの方が運用負荷が軽くなります。専用システムでは、医師の身分証明機能やセキュリティ要件が標準実装されているためです。

次世代セキュリティアーキテクチャ

医療機関向けには、従来の境界防御型からゼロトラストアーキテクチャへの移行が進んでいます。これは「何も信頼しない」を前提とした設計で、院内外問わずすべてのアクセスを検証するアプローチです

データの完全性保証も重要課題です。診療記録の改ざん防止、アクセスログの完全性確保、長期保存時のデータ劣化防止など、医療データ特有の要件に対応する必要があります。

3.3 レガシーシステムとの統合・連携

現状の深刻な問題

日本の医療機関の多くでシステムが別々に運用されており、これが遠隔診療普及の最大の障壁となっています。医師は同じ患者情報を複数システムに重複入力する必要があり、作業負荷が2-3倍に増加している状況です。

「診療効率の低下を懸念。事務手続き、会計、電子カルテと連携する必要性がある」との声もあり、システム連携の重要性が高まっています。

技術的解決策のアプローチ

API-first設計による段階的統合が現実的な解決策です。既存の電子カルテやレセコンを一度に置き換えるのではなく、APIを通じてデータ連携を実現し、徐々に統合度を高めていく戦略が有効です。

HL7 FHIR標準への対応も重要です。政府主導で医療情報の標準化が進められており、FHIRに対応したシステム設計により、将来的な相互運用性を確保できます。

データ整合性の確保も技術的課題です。リアルタイム同期、エラーハンドリング、障害時の復旧処理など、複数システム間でのデータ一貫性を保つ仕組みが必要です。

3.4 スケーラブルな収益モデルの構築

収益モデルの戦略的選択

従来のSaaS型月額課金(CLINICSモデル)に加え、基本無料のフリーミアム型(curonモデル)、利用回数に応じた従量課金型など、多様なモデルが競合しています。技術アーキテクチャは選択した収益モデルに大きく依存するため、初期段階での戦略決定が重要です。

エコシステム型収益モデルも注目されています。診療から薬局連携、決済までの一連のフローで手数料を得るモデルで、これを実現するには幅広いシステム連携機能が技術的前提となります。

技術による差別化戦略

システム連携能力が競争優位の源泉となっています。医師の業務効率を最大化できるシステムほど、医療機関からの支持を得やすく、結果として収益性も向上します(医師の時間単価を考慮すると、効率化による価値は非常に高い)。

データ活用による新収益源も技術的に可能になります。匿名化された診療データの研究機関向け提供、AI学習用データセットの販売など、適切なプライバシー保護技術を前提とした新しいビジネスモデルが構築できます。

技術投資の優先順位

現在の市場状況を踏まえると、システム連携機能への技術投資が最も高いROIを示します。医師の業務効率化に直結する機能開発が、差別化と収益向上の両方を実現する最も確実な戦略と言えます。

まとめ

本記事で示した通り、遠隔診療サービス市場は確実な成長を続けており、特にシステム連携は重要な要因となっています。医療機関の多くが抱えるシステム分離問題は、技術的解決策を提供できることが大きなポイントと考えます。

技術的な完璧さよりも、医療現場の実際のペインポイント解決を優先することが重要です。医師の「連携できた方が圧倒的に楽」というニーズに応える技術設計、既存の電子カルテ・レセコンとのAPI連携、医師の業務効率化に直結するUX設計こそが、持続的な競争優位を生み出します。

オンライン診療市場はまだ成長段階にあり、適切な技術戦略を持つスタートアップが大きな成果を上げる余地が十分に残されています。本記事で示した課題認識と解決アプローチを参考に、医療現場に真の価値をもたらすサービス開発を進めることで、日本の医療DX推進に一緒に貢献していきましょう。

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オプスイン編集部
オプスイン編集部
東京都のwebアプリ、スマートフォンアプリ開発会社、オプスインのメディア編集部です。
・これまで大手企業様からスタートアップ企業様の新規事業開発に従事
・経験豊富な優秀なエンジニアが多く在籍
・強みはサービス開発(初期開発からリリース、グロースフェーズを経て、バイアウトするところまで支援実績有り)
これまでの開発の知見を元に、多くのサービスが成功するように、記事を発信して参ります。

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