【2025年12月18日施行】スマホ新法でアプリ運営企業は何をすべきか?外部決済・代替ストアの現実的な判断基準
2025年12月18日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」、通称スマホ新法が全面施行されました。
メディアでは「手数料が半減」「選択肢が拡大」といった報道が目立ちますが、アプリを運営する企業にとって本当に対応が必要なのでしょうか。本記事では、実務的な視点から判断基準を解説します。
1. スマホ新法とは

スマホ新法は、AppleとGoogleによるスマートフォン市場の寡占状態を是正し、公正な競争環境を整備することを目的とした法律です。公正取引委員会が所管し、両社を規制事業者として指定しています。
これまで両社はApp StoreとGoogle Playを通じてアプリ配信を独占し、決済システムの利用を強制してきました。この状況に対し、日本政府が法的規制を導入した形です。
外部決済の解禁
従来、アプリ内でデジタルコンテンツを販売する際は、必ずApp StoreまたはGoogle Playの決済システムを使う必要がありました。スマホ新法では、開発者が独自または外部の決済システムを導入し、アプリ内PSP決済またはユーザーをアプリからWebサイトに誘導して決済することが可能になりました。
ただし、Appleは外部決済に対しても手数料を設定しています。
・Appleの外部決済手数料:
- アプリ内で代替決済プロバイダを使用する場合: 10%または21%
- Webサイトへのリンク誘導で決済する場合: 10%または15%
・Googleの外部決済手数料:
- 自動更新サブスクリプション: 10%
- その他のデジタル購入: 20%
- ※リンクをタップしてから24時間以内の取引が対象
開発者には売上の報告義務があり、自己申告に基づいて手数料を支払う仕組みです。
出典:日本のApp Storeにおける決済オプション – サポート – Apple Developer
出典:外部決済プログラムへの登録 -PlayConsole ヘルプ
Appleの代替アプリストアの許可
iPhoneでも、App Store以外の代替アプリマーケットプレイスからアプリをダウンロードできるようになりました。iOS 26.2以降が対象で、開発者は代替ストアを通じてアプリを配信できます。
ただし、Appleは代替ストアから配信されるアプリでのデジタル商品やサービスの販売に対して5%のコアテクノロジー手数料(CTC: Core Technology Charge)を課します。これはAppleのOSや技術を利用する対価として設定されたものです。
出典:日本におけるiOSの変更 – サポート -Apple Developer
ブラウザと検索エンジンの選択
スマートフォンの初回起動時や初期設定時に、使用するブラウザと検索エンジンを選択する画面(チョイススクリーン)が表示されるようになりました。これまでiPhoneではSafari、AndroidではChromeが初期設定されていましたが、ユーザーが自由に選択できるようになります。
アプリ内決済手数料の引き下げ
App StoreとGoogle Playのアプリ内決済手数料が一部引き下げられました。Appleは大規模事業者向けの手数料を30%から26%(App Store手数料: 21% + 決済処理手数料: 5%)に変更しています。
出典:日本のApp Storeにおける決済オプション – サポート – Apple Developer
ただし、これには重要な注意点があります。年間売上100万ドル(約1.5億円)以下の小規模事業者は、2020年から既にApp Store Small Business Programにより15%の手数料が適用されていました。今回の変更で新たに恩恵を受けるのは、主に大規模事業者です。
2. 既存アプリへの影響
アプリ内決済手数料の変更やコアテクノロジー手数料の影響があるのは、アプリ内でデジタルコンテンツを販売しているケースです。全てのアプリが影響を受けるわけではありません。
アプリ内課金(IAP:In-App Purchase)が必須とされてきたのは、ゲームのアイテム購入、動画や音楽のサブスクリプション、電子書籍の販売など、アプリ内で消費されるデジタルコンテンツです。これらは従来AppleやGoogleの決済システムを使う必要があり、最大30%の手数料が課されていました。
一方、ECアプリで物理的な商品を販売する場合、フードデリバリーで食事を注文する場合、配車サービスでタクシーを手配する場合などは、元々外部決済が認められていました。これらは現実世界のサービスや物理商品を扱うため、App StoreやGoogle Playの決済システムを使う義務がありません。
デジタルコンテンツの販売を行っている場合は特に、スマホ新法の影響を受ける可能性があります。
3. 外部決済に移行すべきか?
手数料削減の可否

外部決済に移行により手数料をどれほど削減できるかは、アプリの規模や外部決済の方法により変わります。
◆年間売上が100万ドル以下の小規模事業者
スマホ新法施行により、App Store Small Business Programの手数料が15%から10%に引き下げられました(App Store手数料10% + 決済処理手数料は免除)。
外部決済に移行した場合:
- アプリ内で代替PSP決済: Apple 10% + 決済代行3-5% = 13-15%
- Webサイトへ誘導して決済: Apple 10% + 決済代行3-5% = 13-15%
小規模事業者はスマホ新法によりこれまでの手数料をApp Store手数料と決済処理手数料に分けられ、アプリ決済は合わせて15%で変わりません。外部決済に移行した場合、App store手数料は10%ですが、決済代行手数料を3~5%とした場合、アプリ決済と比べてコストメリットは2%です。これを大きいととるか小さいととるか次第ではありますが、小さいと捉えるとすれば、App Store内決済の方がユーザー体験が優れているため、現状維持が妥当と考えられます。
◆年間売上が100万ドルを超える大規模事業者
App Store内決済では合計26%の手数料(App Store手数料21%+決済処理手数料5%)です。
外部決済に移行した場合:
- アプリ内で代替PSP決済: Apple 21% + 決済代行3-5% = 24-26%
- Webサイトへ誘導して決済: Apple 15% + 決済代行3-5% = 18-20%
アプリ内代替PSP決済の場合は大きなコスト削減は見込めませんが、Web誘導の場合は6-8%のコスト削減が可能です。ただし、ユーザー体験の悪化による離脱率上昇のリスクが伴います。
実装・運用コストの増加
外部決済を導入するには、決済システムの開発・統合が必要になり、その開発費用がかかります。
不正決済への対応も自社で行う必要があります。App StoreやGoogle Playの決済システムを使っている場合、不正検知や返金処理はプラットフォーム側が対応しますが、外部決済では全て自社の責任となります。
さらに、外部決済を利用する場合でも、AppleやGoogleへの報告義務があります。毎月の売上を自己申告し、手数料を支払う必要があります。Appleは契約上、監査権を保有しており、必要に応じて売上記録の正確性を確認する権限があります。
ユーザー体験への影響
外部決済では、購入フローが複雑化し、離脱率が上昇する可能性があります。App StoreやGoogle Playの決済システムは、ユーザーが既に登録している支払い情報を使えるため、購入までの手順が最小限です。外部決済に移行すると、ユーザーが改めてクレジットカード情報を入力する必要があり、購入完了率が低下するリスクがあります。
現実的な判断基準
外部決済サービスを利用することで恩恵が受けられるケースは限定的です。大規模事業者において、外部決済を「アプリから外部のWEBサイトに誘導して決済する」方法を採用した場合に手数料を6~8%削減できるメリットがあります。ただし、購入フローの複雑化によるUXの低下も懸念する必要があります。
4. 代替ストアの検討
代替ストアの現状
2025年12月18日のスマホ新法施行に合わせて、日本国内でも代替アプリマーケットプレイスの提供が開始されました。
- AltStore PAL: iOS 18.2以降で日本でのサービスを開始
- Epic Games Store: 日本での提供を表明しており、順次展開予定
- その他: 今後、新たな代替ストアが登場する可能性があります
ただし、これらの代替ストアの認知度が上がるかどうかはこれからで、現状は一般ユーザーが日常的に利用する状況にはなっていません。(2025.12.23 現在)今後、新たな代替ストアが登場する可能性はありますが、App StoreやGoogle Playと同等の規模に成長するまでには相当な時間がかかると考えられます。
開発工数への影響
代替ストアに配信する場合でも、開発言語は変わりません。iOSアプリはSwiftまたはObjective-Cで開発し、AndroidアプリはKotlinまたはJavaで開発します。App Storeに配信する場合と同じコードを使用できます。
ただし、配信先が増えることで管理コストは増加します。App Store、Google Play、代替ストアの3箇所でそれぞれ審査を受け、バージョン管理を行う必要があります。アプリのアップデート時には全ての配信先で更新作業が必要になり、工数が増えます。
集客力の現実
Appleの公式データによると、App Store内で検索を行ったユーザーの約65%が、検索結果から直接アプリをダウンロードしています。つまり、検索がダウンロードに直結する重要な導線となっています。
出典:広告の配置 – ベストプラクティス – Apple Ads
ユーザーは「App Storeを開いて検索する」という行動習慣が定着しています。現状代替ストアの認知度は広まっていないため誘導するためには、Webサイトやマーケティング施策で積極的に案内する必要があり、追加のコストがかかります。
代替ストアの手数料が仮に低く設定されていても、そこからのダウンロード数が少なければ、全体の収益向上にはつながりません。App Storeでの露出を維持しながら代替ストアにも配信するという戦略は、工数が増えるだけで効果が限定的です。
代替ストアを検討すべきケース
代替ストアを検討するにあたり、App Storeへの手数料(15%~26%)が必要ないのは確かなメリットです。(コアテクノロジー手数料5%はAppleに支払う必要はあり)今後、代替ストアが独自のストア手数料を設定する可能性もありますので、今後動向をチェックする必要はあります。
弊社でも、クライアント様よりAppleストア、Google Play Storeへの手数料の支払いが高いという声は伺います。確かに、代替ストアの方が手数料を抑えられるのはメリットですが、マーケティング的にApple Store、Google Play Storeの掲載効果も大きいので、そこと天秤をかけることになります。
中にはApple Store、Google Play Storeの掲載効果に依存しないケースもあるでしょう。既存の顧客基盤がある場合やSaaS(Software as a Service:ソフトウェアをインターネット経由でサービスとして提供するビジネスモデル)などのB2B市場など考えられます。
そのようなケースの場合、代替ストアの検討を進めてもいいと思います。
まとめ
2025年12月18日にスマホ新法が全面施行され、外部決済の解禁や代替ストアの許可が実現しました。しかし、恩恵を受けられるケースは限定的であり、懸念点も伴います。
自社のビジネスモデルと収益構造を分析し、実質的なコスト対効果を見極めることが重要です。大半のケースでは、既存プラットフォームの継続利用が最も合理的な選択となるでしょう。
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東京都のwebアプリ、スマートフォンアプリ開発会社、オプスインのメディア編集部です。
・これまで大手企業様からスタートアップ企業様の新規事業開発に従事
・経験豊富な優秀なエンジニアが多く在籍
・強みはサービス開発(初期開発からリリース、グロースフェーズを経て、バイアウトするところまで支援実績有り)
これまでの開発の知見を元に、多くのサービスが成功するように、記事を発信して参ります。
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