「アプリを作りたいけど、iOSとAndroid両方の開発は予算的に厳しい…」「App Storeの手数料30%は大きな負担だ…」
こうした課題を抱える企業にとって、PWA(Progressive Web Apps)は有力な選択肢の一つとなっています。Webの手軽さとアプリの機能性を併せ持つPWAは、日本経済新聞やX(旧Twitter)など、国内外の大手企業でも導入が進んでいます。
この記事では、PWAの基本的な仕組みから、メリット・デメリット、実際の成功事例まで、初めての方にもわかりやすく解説していきます。
PWA(Progressive Web Apps)とは何か
PWAの定義と基本概念
PWA(Progressive Web Apps:プログレッシブウェブアプリ)とは、Webアプリにネイティブアプリのような見せ方や機能を提供する技術のことです。
通常のWebサイトは、ブラウザでアクセスして閲覧するだけですが、PWAはブラウザ上で動作しながらも、スマートフォンのホーム画面に追加できたり、オフラインでも動作したり、プッシュ通知を送れたりと、まるでネイティブアプリのような体験を提供できます。
PWAは2015年にGoogle Chromeエンジニアの Alex Russell とデザイナーの Frances Berriman の2人によってによって提唱された概念で、HTML、CSS、JavaScriptといった標準的なWeb技術で構築されます。「Progressive(プログレッシブ)」という名前には、「段階的に進化する」という意味が込められています。ユーザーの環境やブラウザの機能に応じて、最適な体験を提供できるよう設計されています。
ネイティブアプリ・Webアプリとの違い
PWAを理解するには、従来のネイティブアプリやWebアプリとの違いを知ることで把握できます。
| 項目 | Webアプリ | PWA | ネイティブアプリ |
|---|---|---|---|
| インストール方法 | 不要(ブラウザでアクセス) | ホーム画面に追加 | App Storeからダウンロード |
| ストレージ使用量 | ほぼゼロ | 数MB程度 | 数十MB〜数百MB |
| オフライン対応 | ✕ 基本的に不可 | ○ 可能 | ○ 可能 |
| プッシュ通知 | ✕ 不可 | ○ 可能(一部制限あり) | ○ 完全対応 |
| 開発コスト | 低い(1プラットフォーム) | 低い(1プラットフォーム) | 高い(iOS/Android別々で開発する場合) |
| App Store経由 | 不要 | 不要 | 必須 |
| ハードウェア機能 | 制限あり | 制限あり | フルアクセス |
| 更新 | 即座に反映 | 即座に反映 | ストア審査が必要 |
このように、PWAはWebアプリの手軽さとネイティブアプリの機能性の中間に位置する技術と言えます。
PWAを構成する3つの主要技術
PWAは、以下の3つの主要技術によって実現されています。
Service Worker(サービスワーカー)
Service Worker(サービスワーカー)は、PWAの中核を担う技術です。ブラウザのバックグラウンドで動作するJavaScriptプログラムで、Webページとは独立して実行されます。
主な役割:
- キャッシュ管理:必要なリソース(HTML、CSS、画像など)をデバイスに保存
- オフライン対応:ネットワークがなくてもキャッシュからコンテンツを表示
- プッシュ通知:バックグラウンドでも通知を受信・表示
- ネットワークリクエストの制御:通信を傍受して、キャッシュから返すか、サーバーから取得するか判断
Service Workerがあることで、PWAは通常のWebサイトではできない「オフラインでの動作」や「プッシュ通知」を実現しているのです。
Web App Manifest(マニフェストファイル)
Web App Manifestは、PWAの情報を定義するJSONファイルです。アプリの名前、アイコン、配色、表示モードなど、アプリとしての見た目や振る舞いを記述します。
主な記載内容:
- アプリ名(短縮名・フル名)
- アイコン画像(さまざまなサイズ)
- テーマカラー・背景色
- 表示モード(全画面、スタンドアロン、ブラウザなど)
- 起動URL
このマニフェストファイルがあることで、ユーザーはPWAをホーム画面に追加でき、まるでネイティブアプリのように起動できるようになります。
HTTPS(安全な通信)
PWAを動作させるには、HTTPS通信が必須です。
Service Workerは強力な機能を持つため、悪意のある第三者に乗っ取られると大きなセキュリティリスクになります。そのため、PWAはHTTPSで保護された安全な通信環境でのみ動作するよう設計されています。
これにより、ユーザーのデータやプライバシーが保護され、安心して利用できる環境が確保されるのです。
PWAでできること・できないこと
PWAで実現できる主な機能
PWAでは、以下のような機能を実現できます。
-
オフライン動作
Service Workerによるキャッシュ機能により、一度アクセスしたコンテンツはインターネット接続がなくても閲覧できます。地下鉄や飛行機の中など、ネットワークが不安定な環境でも快適に利用できるのは大きなメリットです。 -
ホーム画面への追加
ユーザーはPWAをスマートフォンやタブレットのホーム画面に追加できます。追加すると、ネイティブアプリと同じようにアイコンから起動でき、ブラウザのアドレスバーなども非表示にできるため、アプリらしい体験を提供できます。 -
プッシュ通知
ユーザーの許可を得れば、プッシュ通知を送信できます。新着情報やキャンペーン情報など、ユーザーとのエンゲージメントを高める施策が可能です。
ただし、iOSでは2023年からようやく対応が始まったばかりで、Androidと比べると制約があります。 -
高速な読み込み
キャッシュ機能により、2回目以降のアクセスは非常に高速に表示されます。ユーザーを待たせないスムーズな体験は、離脱率の低下やコンバージョン率の向上につながります。 -
自動更新
PWAは、ユーザーが意識することなくバックグラウンドで自動的に更新されます。ネイティブアプリのように「アップデートしてください」と促す必要がなく、常に最新版を提供できます。
PWAで難しい・制限がある機能
一方で、PWAには以下のような制約もあります。
-
ハードウェア機能の一部へのアクセス制限
Bluetooth、NFC、高度なカメラ制御(マニュアルフォーカス、RAW撮影など)といった、端末のハードウェアに深くアクセスする機能は、PWAでは利用できない、または制限があります。
基本的な写真撮影やアップロードは可能ですが、カメラアプリのような高度な機能が必要な場合は、ネイティブアプリの方が適しています。 -
App Storeでの露出
PWAは、App StoreやGoogle Playに掲載することができません(技術的には可能ですが、一般的ではありません)。そのため、アプリストアからの自然流入やランキング上位表示といった集客施策は使えません。
新規サービスの認知拡大においては、この点がデメリットになる可能性があります。 -
iOSでの機能制限(特にSafari)
AppleのiOSでは、PWAの一部機能に制限があります。特にSafariブラウザでは、プッシュ通知が2023年まで対応していなかったり、バックグラウンド同期に制約があったりと、Androidと比べて機能面で劣ることがあります。
また、2024年2月にはiOS 17.4ベータ版でPWAサポート廃止の動きがEU限定であり(その後撤回)、Appleの対応には不透明な部分も残っています。
PWAのメリット
PWAには、ユーザー側・企業側それぞれにメリットがあります。
ユーザー側のメリット
アプリストアからのダウンロード不要
App StoreやGoogle Playにアクセスして、アプリを探して、ダウンロードして…という手間がありません。Webサイトにアクセスするだけで、すぐに使い始められます。PWAをホーム画面に追加しなくても利用できますので、アプリをダウンロードすることへの心理的ハードルが高いユーザーにとって、この手軽さは大きな魅力です。
軽量でストレージを圧迫しない
PWAは数MB程度と非常に軽量です。ネイティブアプリが数十MB〜数百MBのストレージを消費するのに比べ、端末の容量を圧迫しません。ストレージ不足に悩むユーザーにとって、この軽さは重要なポイントになります。
データ通信量の削減
キャッシュ機能により、一度読み込んだデータは再利用されるため、データ通信量を大幅に削減できます。
実際、X(旧Twitter)のPWA版「X Lite(旧Twitter Lite)」は、データ使用量を70%削減したと報告されています。通信制限を気にするユーザーや、モバイルデータプランが従量課金制の地域では特に重宝されます。
常に最新版が使える
バックグラウンドで自動更新されるため、ユーザーは常に最新版を利用できます。「アプリを更新してください」という煩わしい通知もありません。
企業側のメリット
開発コストの削減
PWAは、webブラウザ上で動くアプリになりますので、iOS、Android、Windows、macOSなどのOSが変わってもワンソースで管理が行えます。
つまり、iOS用とAndroid用に別々のアプリを開発する必要がないため、両方開発する場合と比べて、開発期間もコストも大幅に削減できます。中規模のアプリケーションであれば、初期開発費用で300万〜500万円程度の差が出ることもあります。
ネイティブアプリでクロスプラットフォーム開発という選択もありますが、ここでは省略させていただきます。
App Store手数料の回避
App StoreやGoogle Playを経由した決済には、15〜30%の手数料がかかります。年商3,000万円のサービスであれば、年間450万〜900万円もの手数料を支払うことになります。
PWAは、Webベースで直接決済システムを実装できるため、この手数料を回避できます。クレジットカード決済などの手数料(3%前後)のみで済むため、収益性が大きく改善します。
OSバージョンアップ対応の負担軽減
ネイティブアプリを運営していると、iOSやAndroidの年次アップデートへの対応が大きな負担になります。
- Android:年1回のメジャーアップデート + セキュリティパッチ毎月
- iOS:年1回のメジャーアップデート(9月)+ マイナーアップデート複数回
PWAはWeb標準技術で構築されるため、ブラウザ側が互換性を保証してくれます。OSバージョンアップの影響を直接受けにくく、この保守コストを削減できるのは大きな魅力です。
継続的デプロイメント
PWAは、ストアの審査なしで即座に更新できます。バグ修正や機能改善を思い立ったら、すぐにユーザーに届けられます。
ネイティブアプリの場合、App Storeの審査には数日かかることもあり、緊急のバグ修正でも待たされることがあります。PWAなら、こうした制約がありません。
PWAの活用事例
ここでは、実際にPWAを導入して成果を上げている企業の事例をご紹介します。
PWA導入によるの成功事例
日本経済新聞(日経電子版)
日本経済新聞社は、2017年にWebサイトをPWA化しました。メディア企業として、読者により快適な閲覧体験を提供することを目指した取り組みです。
導入効果:
- 読み込み速度を示すスコアが75%改善
- オーガニックトラフィックが2.3倍
- Web経由のDAU(Daily Active Users)が49%増
日経電子版は月間アクセスユーザー数2500万人のユーザーを抱え、毎日900本もの記事を配信しています。PWA化により、読者の体験が大幅に向上し、エンゲージメントも高まったと報告されています。特に注目すべきは、オーガニック検索からの流入が2倍以上に増加した点です。PWAのSEO効果が如実に表れた事例と言えるでしょう。
出典: Google Developers (- Nikkei achieves a new level of quality and performance with their multi-page PWA)
X(旧Twitter)- X Lite(旧Twitter Lite)
X(旧Twitter)は、特に通信環境が不安定な新興国市場向けに「X Lite(旧Twitter Lite)」というPWA版を開発しました。
導入効果:
- データ使用量を70%削減
- 直帰率を20%削減
- ポスト送信数が75%増加
データ使用量の大幅な削減により、モバイルデータプランが従量課金制の地域や、低スペック端末を使用しているユーザーでも快適に利用できるようになりました。その結果、ユーザーのエンゲージメントが大きく向上し、ポスト送信数も75%増加しています。この事例は、PWAが新興国市場で特に効果を発揮することを示しています。
出典: Google Developers – Twitter Lite PWA Significantly Increases Engagement and Reduces Data Usage
PWAはどんなサービスに向いているか
PWAが向いているサービスの特徴
以下のような特徴を持つサービスは、PWAとの相性が良いと考えられます。
- すでにWeb経由のユーザーを多く見込める:検索エンジンやSNSからの流入が主な導線
- 情報閲覧・検索が主な用途:ニュース、ブログ、商品検索など
- App Store手数料を避けたい課金モデル:デジタルコンテンツ販売、サブスクリプション
- クロスプラットフォーム対応が重要:iOS、Android両方のユーザーに等しく対応したい
- 頻繁な更新・改善が必要:ストア審査を待たずに即座に改善したい
PWAが向いていないサービスの特徴
逆に、以下のような特徴を持つサービスには、ネイティブアプリの方が適している場合があります。
- App Storeでの露出・認知拡大が重要:新規サービスの立ち上げ時など
- 高度なハードウェア制御が必要:AR、VR、高度なカメラ機能など
- リッチなグラフィック・3D表現が必要:ゲーム、動画編集アプリなど
- iOSユーザーが大半を占める:iOSでの機能制限が大きな障害になる場合
PWAの課題とデメリット
PWAには多くのメリットがある一方で、課題やデメリットも存在します。導入を検討する際は、これらの点も十分に理解しておく必要があります。
技術的な制約
iOSでの機能制限(Safariの対応状況)
AppleのiOS環境では、PWAの一部機能に制限があります。特にSafariブラウザでは、プッシュ通知が2023年まで対応していなかったり、バックグラウンド同期に制約があるなど、Androidと比べて機能面で劣る部分があります。
また、2024年2月にはiOS 17.4ベータ版でPWAサポート廃止の動きがあり(その後撤回されましたが)、Appleの対応には不透明な部分も残っています。
iOSユーザーが多い日本市場では、この点は無視できない課題です。
ブラウザ間の互換性問題
PWAは、ブラウザによってサポート状況が異なります。Chrome、Edge、Firefox、Safariなど、それぞれの実装に微妙な差があり、すべてのブラウザで完璧に動作させるには、テストと調整が必要です。
特に、古いバージョンのブラウザでは一部機能が動作しない場合もあり、幅広いユーザー層に対応するには注意が必要です。
ハードウェア機能へのアクセス制限
前述の通り、Bluetooth、NFC、高度なカメラ制御など、端末のハードウェアに深くアクセスする機能は、PWAでは利用できない、または制限があります。
こうした機能が必須のサービスでは、ネイティブアプリを選択する必要があります。
ビジネス上の課題
App Storeに掲載できない
PWAは、App StoreやGoogle Playに掲載することが一般的ではありません。そのため、アプリストアからの自然流入や、ランキング上位表示による露出といった集客施策が使えません。
新規サービスの立ち上げ時など、認知拡大が重要なフェーズでは、この点がデメリットになる可能性があります。
ユーザー認知度の低さ
PWAは比較的新しい技術であり、一般ユーザーの認知度はまだ高くありません。多くのユーザーにとって「アプリ=App Storeからダウンロードするもの」という認識が定着しており、PWAの存在や利点が理解されていないのが現状です。
「ホーム画面に追加」の操作がわかりにくい
PWAをホーム画面に追加する操作は、ネイティブアプリのダウンロードと比べて分かりにくいと感じるユーザーもいます。ブラウザのメニューから「ホーム画面に追加」を選ぶ必要があり、この手順が直感的でないため、インストール率が低くなる可能性があります。
パフォーマンス面の制約
ネイティブアプリと比較したUI/UXの差
PWAは、ネイティブアプリと比べると、操作の滑らかさやアニメーションのスムーズさで劣ることがあります。
ネイティブアプリは、OS APIに直接アクセスできるため、スクロールや画面遷移が非常にスムーズです。特に、複雑なグラフィック処理(ゲーム、動画編集、AR/VRなど)では、この差が顕著に現れます。
複雑なグラフィック処理では不利
3Dゲームや動画編集、リッチなビジュアル体験を提供するアプリでは、PWAよりもネイティブアプリの方が有利です。ハードウェアの性能を最大限に引き出せるネイティブアプリの方が、優れたパフォーマンスを発揮できます。
PWAとネイティブアプリの詳細な比較を知りたい方へ
ここまでPWAの基礎知識と特徴をご紹介してきましたが、「実際に自社サービスで導入すべきかどうか迷っている」という方も多いのではないでしょうか。
PWAとネイティブアプリの選択では、初期費用だけでなく、3年間の総所有コスト(TCO)、市場の成長性、具体的な判断基準まで含めた総合的な判断が重要です。
詳しくは以下の記事で、市場データ、コスト比較、具体的な判断軸のチェックリストをご紹介していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:PWAは本当に流行らないのか?| 年率30%成長の事実とネイティブアプリとの徹底比較
まとめ
この記事では、PWA(Progressive Web Apps)の基礎知識から活用事例まで解説してきました。
PWAとは、Webアプリにネイティブアプリのような機能を提供する技術で、Service Worker、Web App Manifest、HTTPSという3つの主要技術で構成されています。
PWAのメリットは、ユーザー側では「手軽さ」「軽量性」、企業側では「開発コスト削減」「App Store手数料回避」「保守コスト削減」などが挙げられます。
一方、デメリットとしては、iOSでの機能制限、App Storeでの露出不可、ハードウェア機能へのアクセス制限などがあります。
PWAは、すべてのサービスに適しているわけではありませんが、適切な場面で活用すれば、大きな効果を発揮する技術です。日本経済新聞やXの事例が示すように、ユーザー体験の向上とビジネス成果の両立が期待できます。
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