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2025年12月18日

PWAは本当に流行らないのか?| 年率30%成長の事実とネイティブアプリとの差

PWAは本当に流行らないのか?| 年率30%成長の事実とネイティブアプリとの差

「PWAって結局流行ってないんでしょ?」「導入して大丈夫だろうか、失敗しないだろうか…」

サービス開発を検討されている中で、こんな疑問をお持ちではないでしょうか。確かに、ネイティブアプリと比較するとPWAの市場規模は圧倒的に小さいのが現実です。しかし同時に、年率30%という急成長を続けているのも事実。

この記事では、PWAが流行らないと言われる理由と、それでも成長を続ける背景を、市場データとコスト比較から検証します。そして最も重要な「あなたのサービスに本当に合うのか?」という判断軸と共に考えていきましょう。

1. 流行らないと言われている理由

PWAは確かに流行っているとは言えません。

圧倒的な市場規模の差

2024年の市場データを見ると、ネイティブアプリとPWAには大きな差があります。

ネイティブアプリとPWAの市場規模の差を表すグラフです。

(出典:Grand View Research「Japan Application – Mobile Application Market, 2018-2030」Grand View Research「Japan progressive web apps (pwa) market, 2021-2033」)

  • ネイティブアプリ市場:約2兆8000億円
  • PWA市場:約180億円

モバイルアプリ全体のダウンロード数は年間約3,000億回に達しており、その大半はApp StoreとGoogle Play経由のネイティブアプリです。ただPWAはインストール不要が特徴なので、そもそもダウンロード統計にも現れにくいですが、上記の統計では大きな差があります。

Appleの冷遇という大きな壁

さらに厳しいのが、iOSでのPWA対応状況です。

Appleは長年PWAに対して消極的な姿勢を取り続けています。プッシュ通知機能がiOS Safariで利用可能になったのは2023年と、Androidに比べて大幅に遅れました。しかも、2024年2月にはiOS 17.4ベータ版でPWAサポート廃止の動きがあり、開発者コミュニティに大きな動揺が走りました(その後撤回されました)。

このようなPWAの不安定なところは、事業としてリスクになりえます。

ユーザー認知度の低さ

もう一つの課題は、一般ユーザーの認知度です。

多くのユーザーにとって「アプリ=App Storeからダウンロードするもの」という認識が定着しています。PWAの「Webサイトからホーム画面に追加」という仕組みは、技術的には優れていても、ユーザーに理解されにくいのが現実です。

2. PWA 年率30%成長の事実

しかし、ネイティブアプリと比べて小さな市場ではありますが、PWAは確実に成長を続けています。

急成長する市場データ

PWA市場は以下のような成長を見せています。

(出典:Grand View Research「Japan progressive web apps (pwa) market, 2021-2033」)

  • 2024年:1億1,580万米ドル
  • 2033年予測:12億300万米ドル
  • 年平均成長率(CAGR):約30%

※CAGR(Compound Annual Growth Rate)= 複利年間成長率。投資や市場が毎年どれくらい成長しているかを示す指標です。

成熟したネイティブアプリ市場の成長率が17%であることを考えると、PWAの30%という数字はアプリ開発を検討するにあたり重要な指標でしょう。

PWAの成長の理由=運営側のメリット

重要なのは、PWAが「運営側」にメリットをもたらす技術だということです。

1. OSバージョンアップ対応の負担軽減

ネイティブアプリを運営されている方ならお分かりかと思いますが、iOSやAndroidの年次アップデートへの対応の負担が大きいです。

  • iOS:年1回のメジャーアップデート(9月) + マイナーアップデート複数回
  • Android:年1回のメジャーアップデート + セキュリティパッチ毎月

PWAはWeb標準技術で構築されるため、ブラウザ側が互換性を保証してくれます。OSバージョンアップの影響を直接受けにくく、この保守コストを大幅に削減できるのが大きな魅力です。

2. App Store手数料30%の回避

課金モデルを検討されている場合、App StoreとGoogle Playの手数料(15~30%)は無視できない金額になります。

例えば年商3,000万円のサービスなら、年間450万円を手数料として支払うことになります。3年間で1,350万円です。

PWAはWebベースなので、ストア手数料が一切かかりません。クレジットカード決済などの手数料のみとなります。直接課金システムを実装できるため、収益性が大きく改善します。

3. 新興国市場での需要

もう一つの成長要因が、インドや東南アジア、アフリカなどの新興国市場です。

これらの地域では:

  • 低スペック端末が主流
  • ストレージ容量が限られている
  • 通信環境が不安定
  • データプランが従量課金で高額

PWAの軽量性(数MBで済む)とオフライン動作対応は、こうした市場で大きな武器になります。実際、TwitterのPWA版「Twitter Lite」はデータ使用量を70%削減し、途上国で大きな成功を収めています。

Flutter/React Nativeとの比較

ここで、よくご質問いただくのが「クロスプラットフォーム開発との違い」です。

FlutterやReact Nativeなら、1回の開発でiOS/Android両対応でき、初期コストも従来の「2倍」からは脱却できています。

初期開発コストの比較(中規模アプリ想定):

一般的なEコマースアプリやSNS、予約システムなど、中規模のサービスを開発する場合の費用相場は以下の通りです。

PWAとクロスプラットフォーム開発のコストの比較をしたグラフです。

  • PWA:700万~1,200万円
  • Flutter/React Native:1,000万~1,500万円
  • 差額:300万~500万円程度

初期開発費用では、PWAの方が2~4割ほど安く抑えられるケースが多いです。ただし、この差額だけでPWAを選択するのはまだ早いと考えています。次のセクションでお話しする「中長期的な視点」もとても重要です。

3. PWAの懸念すべき点

ここまでPWAのメリットは大きいですが、同時に懸念すべき事項もあります。場合によっては、結局コスト増につながる可能性もあります。

PWAとネイティブアプリの比較表です。
表1: PWAとネイティブアプリの機能比較 – それぞれの強みと弱みを理解する

マーケティング視点でネイティブアプリが有利な点

サービス開発を始める時点では「PWAで充分な機能が実現できる」と判断するケースはよくあると思います。しかし、事業が成長するにつれてマーケティングの視点でネイティブアプリ化することもよく検討されます。

よくある展開:

初年度:PWAでリリース(1,000万円)

ユーザーが増えて認知を広げたい

2年目:「やっぱりApp Storeに載せたい」
→ ネイティブアプリを追加開発(1,200万円)

3年目:「プッシュ通知の精度を上げたい」
→ さらに改修(200万円)

合計:2,400万円

最初からネイティブアプリ(Flutter/React Native)で開発していれば1,200万円で済んだのに、結果的に2,400万円かかってしまう。

それを致し方なしと捉えられるのであれば最初PWAで進めるのも良いでしょう。プロジェクトをスタートするにあたり、頭に入れておいた方が良いと思います。

UI/UXとパフォーマンスの差

機能面以外にも、ネイティブアプリには体験面での優位性があります。

操作の滑らかさ:

ネイティブアプリは、スクロールやアニメーション、画面遷移が非常にスムーズです。OS APIに直接アクセスできるため、PWAと比べて処理速度が速く、ユーザーが「サクサク動く」と感じやすい体験を提供できます。

特に、複雑なグラフィック処理(ゲーム、動画編集、AR/VRなど)では、この差が顕著に現れます。

OS標準のUIとの親和性:

ネイティブアプリは、iOSならiOS、AndroidならAndroidの標準UIコンポーネントを使えるため、ユーザーが直感的に操作できます。ユーザーの学習コストが低く、洗練された体験を提供できる点もメリットです。

PWAも2024年時点では大きく進化していますが、ゲーム、エンタメ系、リッチなビジュアル重視のサービスでは、ネイティブアプリの方が有利です。

プッシュ通知の不安定さ

ユーザーを呼び戻す施策として重要なプッシュ通知ですが、PWAでは:

  • iOS:2023年からようやく対応したが、まだ不安定
  • Android:対応しているが、ネイティブより信頼性が低い

また前提として、PWAのプッシュ通知は「ホーム画面に追加」が必須のため、通知許可率が上がりにくい点も懸念すべき点です。

エンゲージメント重視のサービス(SNS、ニュース配信、Eコマースなど)では、プッシュ通知の確実性が収益に直結します。この点で、PWAは不利な立場にあります。

Flutter/React Nativeも同等コストで開発可能

中規模アプリの場合、初期開発費用の差は300万~500万円程度です。

それに、Flutter/React Nativeなら:

  • App Storeに掲載できる
  • プッシュ通知が確実
  • 将来の機能拡張が容易
  • UI/UXのパフォーマンスが優れている

といったメリットがあります。

初期費用だけを見れば確かにPWAが安いですが、長期的な視点やアプリの方向性によっては、ネイティブアプリの方に軍配が上がるケースもあります。

では、次にPWAかネイティブアプリかどちらを選択すべきかを考えていきたいと思います。

4. PWA導入すべきケース・避けるべきケース

ここまでの情報を踏まえて、具体的な判断軸を一緒に確認していきましょう。

5つの判断軸チェックリスト

あなたのサービスについて、以下の5つの質問に答えてみてください。

✅ 判断軸1:App Storeに載せる必要はあるか?

  • YES → ネイティブアプリ推奨
  • NO(既存Webサービスの拡張、社内業務アプリなど) → PWA候補

App Storeでの露出が必要なら、最初からネイティブで開発するか、後で追加する前提でPWAを選びましょう。特に新規サービスの認知拡大フェーズでは、App Store経由のオーガニック流入は重要です。

✅ 判断軸2:3年以上の長期運用を前提としているか?

  • YES → PWAの保守コスト優位性が効く
  • NO(1~2年の短期プロジェクト) → どちらでも大差なし

長期運用するほど、OSバージョンアップ対応の負担削減効果が大きくなります。3年、5年と見据えるなら、PWAの保守コスト優位性は魅力的です。

✅ 判断軸3:UI/UXのパフォーマンスやリッチな体験が重要か?

  • YES(ゲーム、動画編集、リッチなビジュアル体験) → ネイティブアプリ推奨
  • NO(情報閲覧、シンプルな操作) → PWA候補

スムーズなスクロール、複雑なアニメーション、高度なグラフィック処理が必要なら、ネイティブアプリの方が優れた体験を提供できます。

✅ 判断軸4:将来的な機能拡張の可能性は?

  • 高い(高度なカメラ制御、AR、複雑なセンサー利用など) → ネイティブアプリ推奨
  • 低い(要件が固まっている) → PWA候補

「今は使わないけど将来必要かも」という機能があるなら、最初からネイティブで開発した方が、後からの作り直しコストを避けられます。

※補足:基本的な写真撮影・アップロード程度の機能なら、PWAでも実現可能です。ただし、マニュアルフォーカス、RAW撮影、リアルタイムAR処理など高度な制御が必要な場合はネイティブが必須です。

✅ 判断軸5:課金モデルがあり、App Store手数料を避けたいか?

  • YES(特にEコマース、デジタルコンテンツ販売) → PWA有利
  • NO(無料サービス、広告モデル) → どちらでも可

年商3,000万円なら、手数料だけで年間450~900万円の差が出ます。3年で1,350~2,700万円の差になるため、課金モデルがある場合はPWAの優位性が大きくなります。

TCO(総所有コスト)で考える重要性

TCOによるコスト比較のグラフです。

最後に、最も重要なポイントをお伝えします。

アプリ開発では「初期費用の安さ」に目が向きがちですが、本当に大切なのは3年間の総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)です。

※TCO = 初期開発費用 + 運用保守費用 + App Store手数料 + 追加機能開発費用の合計

TCOシミュレーション例(中規模アプリ想定):

【ケース1:課金型Eコマースアプリ(年商3,000万円)】

  • PWA:初期1,000万円 + 保守120万円×3年 + 手数料0円 = 1,360万円
  • ネイティブ:初期1,200万円 + 保守180万円×3年 + ストア手数料900万円×3年 = 3,900万円
  • 差額:2,540万円(PWAが有利)

【ケース2:SNSアプリ(無料、広告モデル)】

  • PWA:初期1,000万円 + 保守120万円×3年 + App Store追加1,200万円(2年目) + プッシュ改修200万円 = 2,760万円
  • ネイティブ:初期1,200万円 + 保守180万円×3年 = 1,740万円
  • 差額:1,020万円(ネイティブが有利)

このように、ビジネスモデルによって最適解が大きく変わります。初期費用だけで判断せず、3年後までのシナリオを描いて比較することをおすすめします。

まとめ:自社に合った選択を

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。

PWAは「流行っていない」というのは事実です。しかし同時に、年率30%で成長を続けているのも事実です。

重要なのは、「流行っているか」ではなく「あなたのサービスに合っているか」が重要と考えます。

既存Webサービスの拡張や、課金モデルでApp Store手数料を避けたい場合、PWAは強力な選択肢になります。

一方、App Storeでの認知拡大や、リッチなUI/UX体験、プッシュ通知の確実性が重要なら、ネイティブアプリを選ぶべきでしょう。

そして、「今はPWAで充分」でも中長期的な視点も重要です。

私たちは、皆様の事業が成功することを心から応援しています。この記事が、後悔のない選択をするための一助になれば幸いです。

もし判断に迷われたら、一緒に検討させていただきます。お気軽にご相談ください。

Author Profile

オプスイン編集部
オプスイン編集部
東京都のwebアプリ、スマートフォンアプリ開発会社、オプスインのメディア編集部です。
・これまで大手企業様からスタートアップ企業様の新規事業開発に従事
・経験豊富な優秀なエンジニアが多く在籍
・強みはサービス開発(初期開発からリリース、グロースフェーズを経て、バイアウトするところまで支援実績有り)
これまでの開発の知見を元に、多くのサービスが成功するように、記事を発信して参ります。

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