医療分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)は、患者ケアの向上や医療従事者の負担軽減、業務効率化に大きな可能性を秘めています。
(※デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、企業がデジタル技術を活用して、業務や組織、ビジネスモデル、企業文化などを変革し、競争上の優位性を確立することです。)
しかし、成功事例と課題を知ることで初めて、DXの真価を引き出すことが可能です。
本記事では、最新の医療DX事例を7つ紹介し、成功要因やボトルネックについて徹底解説します。
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1. 医療DXの現状と重要性

医療業界の課題
現状、医療業界は医療人材の不足が特に深刻な問題となっています。パーソル総合研究所の労働市場の未来推計によると、医療・福祉業界、2030年には187万人不足との見立てで、他業界と比べても人材不足は深刻です。(出典: 労働市場の未来推計 2030 – パーソル総合研究所)
また、2025年で団塊の世代が全て75歳以上を迎えます。国内全体的に見ても、人材不足の課題を解決することは特に重要です。
2024年4月には医師の時間外労働に上限規制がかけられました。これまで、時間外労働や休日勤務など多くの負担が医師にかかっているので医師にとっては適切な労働時間となることはいいことですが、運営を行う病院側は業務効率化が課題となっています。
医療DXの現状
医療DXの事例は様々ですが、例えば電子カルテの普及については令和5年時点で一般病院の電子カルテシステム普及率は65%、診療所は55%となっています。(出典: 「災害かつ再生に役立つ医療DX―DX推進の現状・課題・展望」をメインテーマに開催 – 日医on-line) 海外の電子カルテ普及率と比べると低く、医療DXはまだこれからというところでしょう。
医療DXの効果とその重要性
医療DXの進展により、次のような成果が期待されています。
・業務効率化:紙媒体の廃止やデータ連携により、手作業の削減。患者情報連携の効率化。
・診断精度の向上:AIやビッグデータを活用して、診断や治療計画の精度を向上。
・患者エクスペリエンスの向上:オンライン診療やリモートモニタリングにより、患者の利便性を向上。
課題は様々ですが、特に医療業界の人材不足は深刻なため、医療DXによる業務効率化の重要性は非常に高いと考えます。
2. 医療DX事例7選
以下は、成功した最新の医療DX事例です。
事例1:オンライン診療システムの導入
取り組み内容:オンライン診療プラットフォームを導入し、患者が自宅から医師に相談可能に。予約、問診、診察、薬の処方までをデジタルで完結。
効果:新型コロナウイルスの影響でオンライン診療の需要が急増。患者の時間と移動コストを削減することが可能になりました。
家庭環境の変化や引っ越しなどによる治療離脱の防止が期待できます。デバイスとネット環境があれば、場所を選ばないので、予約が分散され混雑の緩和も期待できます。
ボトルネック:高齢者のデジタルデバイス使用率が低い。
弊社の実績の中でもオンライン医療相談サービスの開発のご依頼をいただきました。 株式会社Mediplat様のFirstcallです。 事例:Firstcall(株式会社Mediplat様)
事例2:AI画像診断の導入
取り組み内容:AIを活用した画像診断システムを導入し、がんや肺疾患の早期発見を支援。
効果:診断時間の大幅短縮(1件あたり15分→5分)
AIが事前に病変候補箇所を特定し、医師は該当部分のみを確認するだけで済むようになりました。また、AIは20秒以内の高速解析が可能なため、迅速な診断を実現しています。
診断精度の10%向上
AIは人間では見落としやすい微細な病変をピクセルレベルで検出し、大量の学習データから様々な病変パターンを高精度で識別できます。AIと医師のダブルチェック体制により見落としを防止し、確信度スコア表示で重点確認箇所を明確化することで、がんの早期発見率が20%以上向上した事例も報告されています。
ボトルネック:医療従事者のAI技術理解度が低く、教育が必要です。
事例3:統合型医療情報システム(HIS)の導入
取り組み内容:各診療科でバラバラだったシステムを統合し、患者データを一元管理。
効果
診療情報共有の円滑化による効率向上
統合システムの導入により、医師の指示が各部署で瞬時に確認できるようになりました。これまで紙ベースで行っていた検査指示や処方箋の伝達が電子化されることで、転記ミスや判読ミスが解消され、患者の待ち時間が20%減少しました。
医師間コミュニケーションの改善
電子カルテによる情報のデジタル化で、データ閲覧・共有が瞬時に可能になり、診療科を越えた患者情報の連携がスムーズになりました。定型文やテンプレートの活用により、紹介状や診断書の作成業務も効率化され、医師の負担軽減にもつながっています。
ボトルネック:高額な導入費用による中小病院への負担
病院の情報システム関連経費が増加し、特にコロナ禍以降の厳しい病院経営を圧迫しています。各病院が独自にカスタマイズしたシステムの大規模更改が必要になるため、物価・人件費上昇の中でシステム関連費用が高騰し、中小病院には導入のハードルが高くなっています。また、システム人材の確保も困難になっており、導入後の運用・保守体制の構築も課題となっています。
事例4:電子カルテとAIの連携
取り組み内容:電子カルテにAI分析機能を追加し、患者の症状、検査結果、既往歴などの情報を元に、医師の治療計画をサポートし提案を自動化。
効果:
治療ミスの大幅削減
AIによる診断支援により、重要な症状の見落としや投薬ミスなどのヒューマンエラーを大幅に削減できました。特に、AI投薬提案システムが患者の体質や既往歴、遺伝情報を踏まえた最適な薬剤と投与量を算出することで、副作用のリスクを低減しています。
患者満足度15%向上の実現
診療記録の音声入力、自動文書化により医師の事務作業時間を削減し、医師が患者ケアに費やす時間が増加しました。また、AI問診システムにより診察時間を1回あたり3~5分短縮することで患者の待ち時間も短縮され、総合的な患者の利便性が向上しています。
ボトルネック:大量の学習データ確保の困難
AIが学習するためには大量の正解データが必要ですが、希少疾患や症例のデータは必然的に少なく、データの偏りによって特定の患者層への適用が難しくなるリスクがあります。AIへの期待値のコントロールは必要で、あくまで医師の判断をサポートするAIという認識であるべきと考えられます。
事例5:ウェアラブルデバイス連携型遠隔モニタリングシステムの構築
取り組み内容:慢性疾患患者を対象に、ウェアラブルデバイスと連携したモニタリングシステム(RPM)を構築。心拍数、血圧、血糖値などのバイタルデータをリアルタイムで収集し、異常値を検知した際に医療従事者に自動通知する仕組み。
効果:患者の健康状態をリアルタイムで監視し、異常を早期発見。通院回数を30%削減。
ボトルネック:デジタルツール操作の困難
一部の患者、特に高齢者がデジタルツールの操作に困難を感じるケースがあります。スマートフォンやパソコンの操作に慣れていない患者に対しては、サポート体制の整備や操作説明会の開催などの追加対応が必要になっています。
事例6:患者ポータルサイトの開発
取り組み内容:患者が診療履歴、検査結果、予約情報をオンラインで確認できるポータルサイトを提供。
効果:患者の積極的な健康管理参加
検査結果や診療履歴をいつでも確認できることで、患者自身が自分の健康状態を継続的に把握し、より積極的に健康管理に参加するようになりました。医師からのパーソナライズされた指導やアドバイスもオンラインで受け取れるため、治療への遵守率も向上しています。
電話予約業務50%削減
オンライン予約システムの導入により、受付スタッフの予約業務を大幅に削減できました。患者は24時間いつでも予約の確認・変更が可能になり、電話での問い合わせが大幅に減少することで、スタッフはより専門的な患者対応業務に集中できるようになっています。
ボトルネック:一部患者がデジタルツールの操作に困難を感じる。
事例7:RPAを活用した事務業務の自動化
取り組み内容:医療事務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入。保険請求や患者データ入力を自動化。
効果:事務作業時間40%の大幅削減
繰り返し行う膨大な量の単純業務をRPAが代わって処理することで、医療スタッフを長時間労働から解放できました。従来手作業で行っていたデータ入力や書類作成業務が自動化され、スタッフはより専門的で価値の高い患者ケア業務に集中できるようになっています。
入力ミス90%減少の実現
人間による手作業では避けられなかった転記ミスや計算ミスを、RPAの導入により大幅に削減できました。システム間でのデータ連携が自動化されることで、データの整合性が保たれ、医療事故のリスクも軽減しています。
ボトルネック:複雑業務フローの自動化の限界
現在のRPA技術では、判断を伴う複雑な業務フローや例外処理が発生する業務の完全自動化には限界があります。イレギュラーなケースや複数システムを跨ぐ複雑な処理については、追加のシステム開発や人間による判断が必要となり、導入コストと時間が増加する課題があります。
3. 成功要因の共通点

既存の医療ワークフローとの円滑な統合設計が成功の鍵となっています。 どの事例も、医療従事者が従来使い慣れた業務フローを大幅に変更することなく、自然にデジタルツールを活用できるよう設計されており、導入時の抵抗感を最小限に抑えながら効果を最大化することに成功しています。
AIやRPAなどの最新技術を活用することは効果的ですが、実際の現場の医療従事者の方やユーザーとなる患者さんがストレスなく使ってもらえるかはどのシステムにおいても重要なポイントと考えます。
導入後の運用支援として、継続的な研修やサポート体制の整備を行うことや、段階的導入による現場の負担軽減も考慮すると良いでしょう。
4. 医療DXのボトルネックと解決策

(1)高額な初期投資
解決策:段階的なシステム導入によるコスト分散を基本とし、適用可能な補助金制度を個別に検討します。
医療DX導入時の高額な初期投資負担を軽減するため、一度にすべてを変更するのではなく、電子カルテ→統合システム→AI連携といった段階的なアプローチを取ることで、初期費用を分散し、各段階での効果を確認しながら進めることができます。
補助金については、医療機関の形態(個人事業主、医療法人、社会医療法人等)や導入するシステムの内容によって適用可能性が大きく異なるため、具体的なケースに応じて最適な制度を検討する必要があります。 また医療機関向けに医療DXとしてSaasを提供されており、そのSaasの開発費用でものづくり補助金の申請を行うことは検討可能です。
補助金の適用可能性や申請サポートについては、弊社パートナーと連携してご相談を承りますので、お気軽にお問い合わせください。
(2)データセキュリティ
解決策:ゼロトラストセキュリティモデルやデータ暗号化を導入します。
ゼロトラストセキュリティとは「何も信頼しない」を前提に、すべてのアクセスや通信に対して継続的に検証を行うセキュリティモデルです。従来の「内部ネットワークは安全」という境界防御の考え方を改め、内部・外部を問わずすべてのユーザーやデバイスを検証し、最小権限でのみアクセスを許可します。
具体的には、継続的な認証・認可、ネットワークのマイクロセグメンテーション、全通信ログの可視化・監査、リスクベースのアクセス制御などを組み合わせて実現します。医療機関では多様化するサイバー攻撃への対応として、このゼロトラストの考え方を参考にした対策強化が求められています。
加えて、患者データの暗号化、定期的なセキュリティ監査、スタッフ向けセキュリティ教育の実施により、多層防御体制を構築することが重要です。
(3)医療従事者のITリテラシー不足
解決策:システム導入時に包括的な教育プログラムを提供します。
医療従事者のITスキル向上のため、段階的かつ継続的な教育体制を整備します。システム導入前には基本操作研修を実施し、導入後は実際の業務フローに沿った実践研修を行います。また、職種別(医師・看護師・事務員等)や習熟度別に研修内容をカスタマイズし、一人ひとりのペースに合わせた学習をサポートします。
さらに、システムベンダーによる定期的なフォローアップ研修や、院内での「デジタル推進リーダー」の育成により、継続的なスキル向上と問題解決ができる体制を構築します。オンライン学習プラットフォームの活用により、時間や場所に制約されない柔軟な研修環境も提供し、医療従事者の負担を最小限に抑えながら効果的な教育を実現します。
(4)患者のデジタル格差
解決策:高齢者やデジタル弱者にも使いやすいUI/UXを設計します。
患者向けシステムでは、年齢やデジタルスキルに関係なく誰もが簡単に操作できるユニバーサルデザインを採用します。画面を見て直感的に何をすべきかを判断できるよう、色使い、文字サイズ、ボタン配置などで利用者の心理を適切に誘導するUIデザインを実装し、マニュアルを読まなくても操作できる設計を目指します。
具体的には、大きな文字とボタン、分かりやすいアイコン、シンプルな画面構成を採用し、操作手順を最小限に抑えます。また、音声ガイダンス機能や多言語対応、操作サポートのためのヘルプデスク設置により、様々な患者層がデジタルサービスを安心して利用できる環境を整備します。さらに、患者ポータルサイトには操作説明動画や段階的なチュートリアル機能を組み込み、利用者が自分のペースで操作方法を習得できるようサポートします。
まとめ
医療DXは、医療現場の効率化や患者体験の向上に不可欠な取り組みです。
成功事例を参考に、課題を解決しながらDXを推進することで、持続可能な医療環境を構築できます。
これからの医療現場では、技術と人間の知恵を融合させた新しい価値創造が求められます。
こちらの記事では、大まかな指針となるようご覧いただきましたが、各医療施設ごとでより業務にフィットした形でDXを推進できるようスクラッチで開発を進めております。
医療DX推進を検討されている企業様はぜひ弊社にご連絡ください。
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東京都のwebアプリ、スマートフォンアプリ開発会社、オプスインのメディア編集部です。
・これまで大手企業様からスタートアップ企業様の新規事業開発に従事
・経験豊富な優秀なエンジニアが多く在籍
・強みはサービス開発(初期開発からリリース、グロースフェーズを経て、バイアウトするところまで支援実績有り)
これまでの開発の知見を元に、多くのサービスが成功するように、記事を発信して参ります。
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