IoT(Internet of Things)は、センサーや機器などの「モノ」をネットワークにつなぎ、収集したデータを遠隔で確認・分析したり、機器の制御に活用したりする仕組みです。
AIなどの技術と組み合わせることで、収集したデータをもとに予測や最適化、自動制御を行うことも可能になります。センサーやカメラなどのデバイスを通じて、離れた場所からでも状況を把握したり、自動で判断を行ったりすることが可能になります。
本記事では、2026年最新の情報をもとに、IoTで実際にできることを分野別にご紹介します。一般的な解説にとどまらず、実際の導入事例9件を掲載しました。自社で何から始められるかを判断する材料としてお役立てください。
IoTとは? 基本的な仕組みと「できること」の全体像
IoTは「Internet of Things (モノのインターネット)」の略称で、さまざまな機器がインターネットを通じて相互に通信し、情報をやり取りする仕組みを指します。
基本的な構成要素は次の3つです。
- センサー・デバイス:温度、湿度、位置情報、映像などのデータを収集します
- 通信:インターネット経由でデータを送受信します
- データ処理:収集したデータを分析し、必要に応じて機器を制御します
IoTを活用することで、人が現場に行かなくても情報を取得したり、一定の条件に応じて機器を自動制御したりする仕組みを構築できます。例えば、工場の設備が異常を検知して自動で通知したり、農業用ハウスの環境データをもとに自動で温度調整を行ったりすることが可能です。
IoTで実現できる3つの基本機能
この仕組みを業務に落とし込むと、実現できることは大きく次の3つに整理できます。
①データの自動収集と可視化
IoTデバイスに搭載されたセンサーは、温度・湿度・位置情報・稼働状況・映像など、さまざまなデータを自動で収集します。これらのデータはリアルタイムで確認できるため、遠隔地にいても現場の状況を正確に把握することが可能です。
例えば、製造業では機械の稼働状況を常時監視し、生産ラインの効率をダッシュボードで一目で確認できるようになります。
②遠隔操作・監視
インターネット経由で機器を操作できるため、離れた場所からでも制御や監視が行えます。外出先からスマートフォンで自宅の照明やエアコンを操作したり、工場の設備を遠隔地から監視したりといった使い方が代表的です。移動のコストや時間を削減しながら、必要な対応をタイムリーに行えるようになります。
③予測・自動判断(AIとの組み合わせ)
IoTで収集したデータをAI(人工知能)が分析することで、予測や最適化が可能になります。例えば、設備の振動や温度のデータから故障の予兆を検知したり、過去の販売データをもとに需要を予測して在庫を最適化したりといったことが実現できます。AIによる分析結果やあらかじめ設定した条件に基づき、人の判断を介さずに機器を自動制御するシステムも構築できます。
【分野別】IoTでできること|具体的な活用事例
ここまでの3つの機能は、現場でどのような成果につながっているのでしょうか。ここからは分野別に、実在する企業・自治体の導入事例を交えてご紹介します。
見守り分野のIoT活用事例|高齢者・子供・現場の安全を見守る
カメラセンサーとAIを組み合わせた見守りシステムは、高齢者・子供・ペットの安全を守る用途で活用されています。
高齢者見守りのIoT事例|転倒検知で事故を未然防止
介護施設や在宅での高齢者見守りでは、AIカメラが姿勢を推定し、転倒や転落につながる異常姿勢を検知します。異常を検知すると、スタッフのスマートフォンやインカムにリアルタイムで通知が届くため、迅速な対応が可能です。
プライバシーに配慮し、シルエット画像のみで判定を行う製品も多く、入居者や利用者の心理的な負担を軽減しています。離床検知や徘徊検知といった機能により、事故の未然防止にもつながります。
【実例】グローリー「mirAI-EYE(ミライアイ)」
グローリーがエコナビスタと共同開発した転倒検知システムです。赤外線3次元センサーで人の骨格から姿勢を正確に認識し、転倒を検知すると管理PCとスタッフのモバイル端末へ即時に通知します。高齢者施設の居室に設置され、早朝・深夜に多い転倒事故の未然防止に貢献しています。
参考:グローリー公式ニュースリリース、グローリー「mirAI-EYE」製品ページ
【実例】KaigoDX「AI見守りカメラ」
見守りカメラ本体は月額1,200円/台から導入でき、転倒・離設検知などのAI検知機能はオプションで追加できる介護施設向けのサービスです。初めて見守りカメラを導入する施設でも低コストで始められる点が特徴です。
参考:KaigoDX
上記以外にも弊社では高齢者向けIoTサービスの開発の実績があります。AIによる画像判定は搭載していませんが、見守り機能に加えて服薬通知や災害情報の通知を組み合わせたシステムを開発しました。
子供・ペットの見守り
留守番中の子供やペットを外出先から確認できるネットワークカメラも普及しています。動体検知や自動追尾機能を備えた製品では、動き回る対象を自動で追跡し、360度の広範囲を監視できます。
双方向の音声通話機能があれば、カメラを通じて声をかけることも可能です。安心して外出できる環境を整えられる点が、多くの家庭で支持されています。
工場での転倒検知|一人作業の安全管理
見守り用途は家庭や介護施設だけでなく、工場での一人作業の安全管理にも活用されています。AIカメラが作業員の転倒を検知し、即時にアラートを発信することで、危険な状況への迅速な対応が可能になります。
【実例】株式会社バルテック「工場向けAIカメラシステム」
一人作業の転倒検知に加え、墜落・転落の危険がある箇所への侵入検知機能も備えています。発生エリアに応じて、パトランプ・インカムアプリ・スマートフォンへのアラートを連動させられます。
参考:株式会社バルテック
見守り分野では、介護現場の業務効率化にもIoTが活かされています。詳しくは看護業務の効率化事例もご覧ください。
製造業のIoT活用事例|予知保全と工場全体最適化
製造業では、IoTとAIを組み合わせた予知保全や生産最適化が進んでいます。
予知保全による設備故障の未然防止
工場の設備にIoTセンサーを取り付けることで、振動・温度・音・電流などのデータをリアルタイムで収集できます。AIがこれらのデータを分析し、正常値からの逸脱を検知することで、故障が発生する前に異常の予兆を把握できる可能性があります。
これにより、突発的な設備停止(ダウンタイム)を削減し、メンテナンスコストの最適化が可能です。安全・安定運行が求められる鉄道業界でも、列車や線路設備の予知保全にIoT×AIが活用されています。
【実例】花王 — 化学・日用品
バッチプロセス(1回分の処理を一度に行う方式)に先進的AIを活用した異常予兆検知システムを導入し、人手に依存していたプラント運転監視・異常検知を自動化しました。連続プロセスではなくバッチプロセスでビッグデータ(大規模なデータ集合)による異常予兆検知を実現した事例として、2022年に日本化学工業協会「レスポンシブル・ケア大賞」を受賞しています。
参考:花王ニュースリリース
【実例】化学メーカー — ファン設備の振動監視
富士電機の回転機故障予兆監視システム「Wiserot」を導入し、ファン設備のベアリング振動を後付けセンサーで無線監視。傾向監視で異常兆候を捉えて計画保守に切り替えることで故障停止を回避し、年間3,000万〜7,000万円の損失対策効果があったと試算されています。
参考:富士電機
工場全体の最適化へ
製造業では、個別設備の監視に加えて、複数の設備や工程から得られるデータを統合し、生産工程全体の最適化につなげる取り組みも進んでいます。センサー、エッジ演算(現場側でのデータ処理)、データプラットフォーム(データを一元管理・分析するシステム)などを役割ごとに層状に積み上げて設計する手法も広がり、生産工程全体を最適化する動きが加速しています。
農業のIoT活用事例|スマート農業で水管理の手間65%削減
農業分野では、IoTセンサーとAIを活用した「スマート農業」が人手不足の解消や収量増加に貢献しています。
環境データの遠隔監視
ビニールハウス内にIoTセンサーを設置することで、温度・湿度・土壌の水分量・日射量などのデータを遠隔地からリアルタイムで確認できます。わざわざ現地に足を運ばなくても、作物の生育環境を把握できるため、移動時間やコストの削減につながります。
AIによる最適な栽培管理
収集したデータをAIが分析することで、最適な施肥のタイミングや灌漑の量を判断できます。作物に合った環境を維持できるため、収量の増加や品質の安定化が期待できます。
人の経験や勘に頼っていた部分をデータで裏付けられるようになり、新規就農者でも高品質な栽培を実現しやすくなります。
【実例】兵庫県豊岡市 × KDDI「豊岡市スマート農業プロジェクト」
「コウノトリ育む農法(無農薬栽培)」に取り組む豊岡市では、雑草抑制のために水位を深く保つ必要があり、毎日約半日かけて広範囲に点在する水田を巡回して水位確認をする必要がありました。KDDIと協力し、低消費電力・広域通信の「LTE-M」(省電力で広いエリアをカバーする通信規格)を採用した水田センサー(水位・水温・地温)を導入。クラウド+スマートフォンで外出先からリアルタイム監視が可能になり、水管理の手間を約65%削減しました。データ分析による収量・品質向上も期待されています。
参考:KDDI 導入事例
【実例】宮城県東松島市 × KDDI「ゼロアグリ」
KDDIが宮城県東松島市にある栽培拠点(KDDIエボルバ野蒜)に導入したAI潅水施肥システムです。日射センサーと土壌センサーの情報からAIが必要な水量を算出し、点滴チューブで自動供給することで、農作物の収量と味の向上を目指しています。
物流業のIoT活用事例|配送ルート最適化で1億マイル削減・CO2 10万トン削減
ドライバー不足が課題となる物流業界では、IoTとAIを活用した配送の最適化や在庫管理の効率化が進んでいます。
配送ルートの最適化
車両にIoTデバイスを搭載することで、位置情報や積載状況をリアルタイムで収集できます。AIがこれらのデータをもとに最適な配送ルートを計算し、効率的な配送計画を立案します。
配送業務の負荷を軽減しながら、輸送コストの削減と配送時間の短縮を同時に実現できます。
【実例】UPS「ORION」— 配送ルート最適化の代表例
各ドライバーの配送先・集荷予定・配送時間の制約を組み合わせて、最適なルートを計算するシステムです。導入により毎年約1億マイル(1.6億km)の走行距離を削減し、約10万トンのCO2削減効果が見込まれると推計されています。
参考:米国運輸省FHWA資料
【実例】佐川急便 — ルート最適化AI「Loogia」
オプティマインドのルート最適化AI「Loogia」を導入。集配業務で使用する情報端末とAPI連携(異なるシステムを相互に接続すること)し、従来は手作業だった集配先の位置確認と集配順序の決定を自動化しました。
参考:佐川急便ニュースリリース
需要予測と在庫最適化
過去の販売データや外部要因(天候、イベントなど)をAIが分析することで、需要を予測し、適正な在庫量を維持できます。過剰在庫によるロスを削減しながら、欠品のリスクも抑えられるため、サプライチェーン全体の最適化につながります。需要予測の実践例は小売業のDX事例でも紹介しています。
スマートホームのIoT活用事例|Matter規格で相互接続が進む
スマートホームは、照明・エアコン・テレビ・ロボット掃除機などの家電をインターネット経由で操作できる仕組みです。スマートスピーカーに話しかけるだけで家電を制御したり、外出先からスマートフォンで操作したりできます。
Matter規格による相互運用性の向上
Matterは2022年に開始され、すでに数百万世帯に普及しています。2026年6月にはMatter 1.6が公開されています。
Matterは異なるメーカーの製品同士でも相互に連携できる規格で、オフライン制御(インターネットが切断されていても操作可能)にも対応しています。
この規格の普及により、これまで課題とされていた相互運用性が改善され、スマートホームの利便性が向上することが期待されています。
Matter規格の実際
MatterはApple・Google・Amazonなどが参加する Connectivity Standards Alliance(CSA)が策定したスマートホームの共通規格です。対応製品にはMatterロゴが表示され、Apple Home・Alexa・Google Homeなど複数のプラットフォーム(複数の環境で動作するシステム)をまたいで同一製品が利用可能です。対応プラットフォーム間の互換性を高め、購入時の対応環境を確認しやすくすることがMatterのメリットの一つです。
参考:CSA公式発表、Apple公式ニュースルーム、Google Home ヘルプ
市場規模の推移
世界のスマートホーム市場は2025年に1,720億米ドル規模と推定され、上位5社(Haier Smart Home、Samsung Electronics、LG Electronics、Amazon、Xiaomi)が2025年に合計47%のシェアを占めています。
2026年のIoT最新トレンド
ここまでの事例は、いずれも現在進行中の大きな流れの一部です。最後に、2026年時点のIoT業界のトレンドを整理します。
IoT×AIで広がる可能性
IoTとAIの組み合わせは非常に相性が良く、2026年はIoTとAIを組み合わせた「AIoT」と呼ばれるシステムも広がっており、センサーから取得したデータの分析・予測・制御への活用が進んでいます。
IoTは「データ収集」を担当し、AIが「分析・予測・判断」を担当することで、単なる遠隔監視や操作にとどまらず、予測や自動最適化といった高度な機能が実現できます。
エッジAIと生成AIの融合
従来はクラウド上でデータを処理していましたが、2026年ではデバイス側(エッジ)でAI処理を行う「エッジAI」(端末側で処理する人工知能)の実用化が進んでいます。リアルタイムでの判断が可能になり、通信量の削減やプライバシー保護にもつながります。
さらに、生成AI(データから新しいコンテンツを生成する人工知能)との融合により、現場での業務最適化支援や設計ドキュメントの自動生成といった用途も広がっています。
MWC 2026で注目された「Agentic AI」
MWC 2026では「Agentic AI」が注目トピックの一つとなりました。Agentic AI(自律型AI)は、与えられた目標に対して状況を認識・推論し、必要なアクションを自律的に実行するAIの概念です。単に映像を記録するだけでなく、状況を判断して次の行動を自動で行う仕組みが実現しつつあります。
Matter規格の普及が進む
スマートホーム分野では、Matterの仕様拡張と対応製品の増加が進んでおり、今後さらに異なるメーカー間の相互運用性が高まることが期待されています。メーカーをまたいだ連携が前提になることで、機器選びの失敗が減り、利便性が大きく向上するでしょう。
製造業:単点導入から工場全体最適化へ
製造業では、個別設備のデータ活用に加えて、複数工程のデータを統合し、AIを生産工程全体の最適化に活用する取り組みが進んでいます。
中小企業でも導入しやすいソリューション
ノーコード・ローコードツール(プログラミングを必要としない、または最小限のコーディングで使えるツール)の普及により、専門的なプログラミングを必要とせずに、IoTデータの可視化や業務アプリケーション(ビジネス用途のソフトウェア)との連携を構築できる選択肢も増えています。後付けセンサーやAI電力監視など、初期投資を抑えて導入できるソリューションも増えました。前述の化学メーカーの事例のように、既存設備へのセンサー後付けだけで大きな損失リスクへの対策ができるケースもあります。費用面に不安がある方は中小企業のDX補助金の選び方もご参照ください。
日本政府のスマートシティ推進
国土交通省は2026年4月10日に9地区を選定し、スマートシティ実装化支援事業を推進しています。データ活用やエネルギーマネジメント(電力の効率的な利用)など、先進的な都市サービスの実証から実装までを一体的に支援する動きが活発化しています。IoTセンサーによる都市インフラの監視・制御が、交通、防災、環境、エネルギー管理など幅広い分野で活用されており、自治体と民間企業が連携したスマートシティの構築が進んでいます。
参考:国土交通省報道発表
まとめ
IoTでできることは、データの自動収集、遠隔操作・監視、そしてAIとの組み合わせによる予測・自動判断へと進化しています。
見守り、製造業、農業、物流、スマートホームなど、幅広い分野で実用化が進んでおり、2026年時点では、IoTを活用した実証だけでなく、実際の業務や都市サービスへの実装を進める取り組みも広がっています。特にAI技術との融合により、単なるデータ収集にとどまらず、「予測・最適化・自動判断」が可能になっている点が大きな特徴です。
導入を検討される際は、まず対象範囲を限定したPoC(実証実験)から始め、効果や運用上の課題を確認したうえで対象を広げる方法も有効です。小規模なPoC(実証実験)からスタートすれば、初期投資を抑えつつ、自社の課題に合ったIoTシステムを構築できます。
弊社では、高齢者向けIoTサービスの開発の実績があります。IoT導入に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
